終活・エンディングノートについて④ 終活は「宗活」 宗活 グリーフケア

終活は「宗活」

人間関係を煩わしいと感じるのも理解できないことではありません。しかし、その関係をすべて絶つような最期は極端に振れてはいないでしょうか。「エンディング」は亡くなって行く者の目線であり、残される側からすればそれは「あなたのいない生活」のスタートであることは以前もお話いたしました。「それでも」生きて行かなければならない人々にとって、「迷惑をかけたくない」という思いが逆に迷惑になってしまう可能性もあるのです。

ある方は、父親の「迷惑をかけたくない」という希望でお葬式をあげなかったことを今でも悔しく思っています。
「あんなに人に尽くした父親に「ありがとう」を言いたかった人達の思いを受け止めることもできず、あんなに世間に世話になった父に成り代わって「ありがとう」を言う場も与えられず、自分は何も出来ずにひっそりと父親を送ってしまった。自分は父から「迷惑をかけたくない」と気遣われるような小さな存在だったのか。父親は最期まで私を子ども扱いしていたのかと思うと悔しくて、そして永遠に父親を超えられないという思いに打ちひしがれた…。父親を葬ることができなかった。これは私が死ぬまで抱えていく負債のように感じた。生前にもっと父親と死の周辺のことについて話し合っておけばよかった。「あんたの葬式くらい、俺が盛大に出してやるから」と言い返してやりたかった…」

一人の人を肉体的に葬ることだけではなく、社会的な存在としても葬ることは大変なことです。しかし、残された人々はそれを葬ることで次のステップに向かえるのかもしれません。また、愛する人との別れに後悔はつきものです。「なぜあんなことをして(言って)しまったのだろう」「なんで、もっとああしておかなかったのだろう」と。そしてそのことは死を以って永遠に解決されぬ後悔となって残された人々を縛り続けるかもしれません。しかし、日本人は死者と現在進行形のコミュニケーション手段をとりながらその後悔と折り合いをつけていくこともできるのです。
配偶者を喪った際などに、残された人が罪悪感をおぼえることもあるようです。「あなたがあんなに楽しみにしていた孫たちの成長を見ることもなく、私一人が孫たちに囲まれ幸せな生活をしていることが申し訳ない…」など。しかし、故人とのコミュニケーション手段をもっていることで、そのやり場のない思いを吐き出すことができるのです。
「あなた、ただいま無事に入園式をすませてきましたよ。本当に大きく育ちましたね。ほら、○○ちゃん、ジイジにいつも見守ってくれてありがとうってナムナムしましょ。」このようにして、亡き人とのコミュニケーションの場と手段を持つことが日本人の死者との関わり方だったのです。

「あの人は死んでしまった」そう理解しようとしてもそれを受け入れることは容易ではありません。一方、「あの人は死んでいない」そう思い込もうとしても普段の社会生活の中ではその人の死を受け入れなければならない場面に何度も遭遇します。どちらの立場も、その都度心に大きな負担がかかります。そして、無理を通せば心の傷にもなりかねません。
日本人は、「あの人は(肉体的、社会的には)『死んでいる』けど、(霊的な存在としては)『死んでいない』」という相反する立場をその死生観の物語の中に持っているのではないでしょうか。そして、場面に応じてこの狭間で「揺れる」ことが出来ます。社会的には「あの人は亡くなりました」と言いながらも、辛いときには仏壇や墓前で「あの人」と語り合うことを奇妙な事としないのが日本人です。
通夜から葬儀~法事といった流れは、この物語と世界観を手に入れるための大切な儀式なのです。この世界観の中で「揺れる」ことで、個々の人は悲しみと折り合いをつける術を身につけて行くのです。


残された人々は自らの力で悲嘆と向き合っていきます。このような主体的な喪の作業をグリーフワークと言います。ご遺族は故人が残した言葉や想いを頼りにその現実を受け止めようとします。しかし、故人の遺した言葉や想いが残されたご家族の悲嘆を深めたり、一歩踏み出すことの足かせになることもあるのです。自身が死んだ後ではそのようにして悲嘆に暮れるご家族をこの腕で抱きしめることも、声を届けてフォローすることも叶いません。一方、故人の遺した言葉や想いが、残された人々の悲嘆を誰よりも癒してくれることもあるのです。
死別の悲嘆にある人をケアすることをグリーフケアと言いますが、この悲嘆を深めないための予防としてのケアもあるのではないでしょうか。それは死別によって大きな心の痛みを感じるであろう相手と生前から宗教観や死生観を共有しておくことです。それはあなたが愛する人とお互いが死別の悲嘆を深めないために生前にできるケアです。その意味で、終活は「宗活」でもあるのです。

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